横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ドラマ「女王ヴィクトリア 愛に生きる」

 NHKで放送の英ドラマ「女王ヴィクトリア 愛に生きる」。録画したものを後から追いかけて視聴してきた。

 

 映画版の感想はこちら:ヴィクトリア女王 世紀の愛 - 横文字の島

 

 ドラマでは即位から第一子出産までを描いている。ざっくり3つのパートに分けて感想をメモ。

 

<女王として即位>
 英国王ウィリアム4世が逝去し、王位継承権を持つ18歳のヴィクトリアが女王として即位する。国王には兄弟(ヴィクトリアの亡父もその一人)がいたが、いずれも跡継ぎがいなかった。ヴィクトリアにはいとこがいたが、その人も早くに亡くなっている。

  映画版では、ヴィクトリアをキャリアウーマンとして見ている? と思ったが、ドラマの第1話では、弱冠18歳というところにフォーカスしている。最近は企業でも女性の管理職や経営者が出てきているし、英国は国のトップが女性だけど、ここまで若いと「こんなに若いのに、こんな重責を担って大丈夫?」という印象に。メルバーン首相のことは、どこか父親代わりに慕っているような印象。

  使用人の世界の人間ドラマも同時並行で描いていて、見たことある人はドラマ「ダウントン・アビー」や映画「ゴスフォード・パーク」を思い出すかも。

 

 メルバーン首相が失脚しかけて、危ういところで留任する。体制を安定化するため、周囲はしきりにヴィクトリアに結婚を勧める。メルバーンを思慕する気持ちや、彼女のことを快く思わない周囲からのプレッシャーに苛まれる。

 母方の叔父のベルギー国王レオポルド1世は、自身の甥で、ヴィクトリアにとってはいとこにあたるアルバートを、夫候補として推薦する。もう、お見合いというか政略結婚。本人の意思とは無関係に、周囲が「この国(家)のこの若者なら、英国にとって安心できるだろう」と話を進める。「身内なら裏切らない!」という、一族の意図が透けて見える。

 

<婚約から結婚>
 エルンストとアルバート兄弟がロンドンにやってきた。女慣れした兄エルンストに比べ、ハンサムだが堅物な弟アルバート。なかなか距離の縮まらない二人のため、エルンストは尽力する(お兄ちゃん、グッジョブ!)。その甲斐あって、ウィンザー城への遠出などを経て、ヴィクトリアとアルバートは心を通い合わせる。

  ついにヴィクトリアとアルバートは婚約するが、色々な問題が出てくる。ドイツ人であるアルバートに対して議会は反発。また、自由を求めてアルバート爵位と年金を要求するが、なかなか叶わない。ヴィクトリアの叔父たちが年金を愛人のために使ったりするばっかりに、アルバートにとばっちりが。かわいそうに。あんなに真面目な人なのに。

  ハネムーンが2~3日とごく短期間で、アルバートが不満をこぼすところは映画版と同じ(史実なのか? 台詞がそっくり同じ)。

  世代的に、結婚のくだりはメルバーン首相の目線で見てしまった(なぜか母親のケント公妃でなく)。結婚式の日の挨拶は、父親のもとを巣立つ娘のような、それ以上のものを含むような、複雑なニュアンスがこもっていた。

 

 晴れて結婚したものの、逆玉の輿のような形で、自分の居場所がないことに思い悩むアルバート。周囲からは跡継ぎ(もちろん王子)をせかされ……。

  なんじゃこれは。まるで田舎の旧家に嫁いだお嫁さんじゃないか! たぶん今の時代、世界で一番、日本女性がアルバートの気持ちが理解できるのでは。

  議会で奴隷制度廃止についてスピーチをする機会を得て、ようやくアルバートは自分の存在感を認めさせるのに成功する。

 

 少し前に、今のデンマーク女王の夫君(王配)が「死後、妻の隣に埋葬しないで欲しい」とぼやいたが、女王と対等に扱われなかったり、処遇に長らく不満があったらしい。それを思うと、ヴィクトリアとアルバート夫妻は、なかなかよくやったのではないかと思う。

 

<出産>
 ヴィクトリアは懐妊する。当時は出産で命を落とす可能性も高かったため、「万が一のことを考え、摂政を決めておくように」と周囲から迫られる。アルバート摂政にと考えるヴィクトリアだが、政治家たちからは反対の声が。

  その頃、アルバートとロバート・ピール(後の首相)は蒸気機関車の試乗に出かける。先日のスピーチや、試乗の機会を経て、アルバートはピールという得難い味方を得る。良かったな、アルバート

  当時の医学知識のためか、やたらと「妊婦はじっとしてなさい」と言われてる。本当は、少しは動いた方が良いんだよね。妊婦&女王のための安全策なのは分かるんだけど、「動かないで」「散歩なんかダメ」ばかり言われるのも……。それにまだ当人が生きているのに、目の前で「万が一」対策を立てているのも……嫌だわ~。

  出産を控えた頃に、次期王位継承者カンバーランド公爵が帰国するのが、また嫌な感じ。女王は9人の子供を出産しているけど、その度に帰国したのか? ま、そうならないように周囲がちゃんと手を打ったと思うが。

 

 ヴィクトリアの幼い頃からそばにいたレーゼンだけど、手紙やスミレの花束、襲撃などの一連の出来事から、アルバートとの間に確執が生まれてくる。史実を確認すると、1842年にはレーゼン(Wikipediaではレーツェン)を宮廷から遠ざけたらしい。ドラマで描かれたのはその前ぶれだろうか。

 

 最後まで見て。
 ヴィクトリア女王は、小柄な女性だったという。映画版のヴィクトリア役のエミリー・ブラントが身長171cmなのに対して、ドラマ版のジェナ・コールマンが157cmと、英国人にしては小柄。それだけに「小柄な~」というセリフがとても効いている。映画版の時は、そういうセリフは出てこなかったような。

 

 ドイツの国名はしきりに登場するが、フランスは「フ」の字も出てこないや。1830年代というと、1830年に7月革命を経て王政復古の時代(1848年の2月革命まで続く)。前世紀の終わりにフランス革命やナポレオンの台頭があって、まだその名残というか、完全に国が落ち着いていない状態。パリ大改造で、首都パリが近代的な街に変貌するのもまだ先。

  ドラマの時期の英国から見ると、ドイツは気になる脅威だが、フランスは……「まあ、落ち着けや」みたいな感じか?(私の偏見)

  このドラマで描かれていないところで、鉄道網の整備が進められ、大英帝国の繁栄が始まるんだろうな。

  終盤はヴィクトリアが身重であまり動けないのもあり、アルバートへの逆風が印象に残り、「がんばれ、アルバート!」な気分。タイトルは、博物館のように「ヴィクトリア&アルバート」でも良かったりして。