横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走

「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」À fond
監督:ニコラ・ブナム
出演:ジョゼ・ガルシア、アンドレ・デュソリエ
2016年 フランス映画

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<あらすじ>
夏休みに入り、最新システム搭載の新車メドゥーサに乗って旅行に出発したコックス家。美容外科の父と、精神科医である妊婦の母、娘と息子に加えて、当日になっておじいちゃんも合流。パリから南仏に向かう高速道路を走るが、自慢の車はブレーキが効かなくなり、制御不能になってしまった。おまけに、道中おじいちゃんが色々やらかしてくれたり、家族の秘密が発覚したり、車内の雰囲気は険悪に――。

 

 おフランスはバカンス大国。夏休みシーズンに入ると、あちこちで渋滞が発生する。冬休みや春休みなんかは、地方によって時期をずらして分散するのだが、夏休みだけはそうもいかない。秋に新学期が始まるので、どこの学校も学年の合間の長期休暇になってしまうのだ。パリジャンに人気なのが南仏で、パリから南仏に向かうルートは特に渋滞するので有名。それもあって冒頭で、渋滞に巻き込まれないよう、早起きするシーンが描かれるのだ。

 本作は、おフランス名物のバカンス旅行を題材にしたコメディ。これ、ハリウッドだったらこうはならないだろう、フランスならではだろうという要素があちこちに転がっている。ブラックユーモアはもちろんだけど、たとえば、子供が何かやらかすんじゃないかと予想していたら、おじいちゃんの方がすごくて、ハリウッドだったら、もっと子供の役割が大きかったんじゃないかと。

 あと、メドゥーサがどこの国の車か説明がないのだが、もしや、おフランス製!? 日本と違って、向こうはちょっとした物がポンコツだったりするのだ。もう、フランスあるある。あと、美容外科医である父の患者が、ボトックス注射で大変なことになるが、それも中国製と言ってたり。ハリウッド映画だったら、絶対にそんなこと言えない。

 アムールの国を象徴するかのような場面、エピソードがちょいちょいあるのも、フランスらしい。

 おじいちゃん役がアンドレ・デュソリエで、知的でダンディーな紳士を演じることの多いこの俳優さんが、くそジ……ゲフンゲフン、チョイ悪じーちゃんを演じているのが意外! 運命の出会いを求めて、いい歳になってもフラフラしていて、ナンパに明け暮れている、困ったじーちゃん(でも孫には甘い)。奥さん、嘘だと思うなら、Wikipediaで芸歴をご覧になって。びっくりだわよ!

 解決のため、白バイ警官が大活躍するのだが、その女性上司のキャラが立ってる。フランスとかイタリアとかにいるのよー、こういう小柄でチャキチャキした、声がハスキーな女性。仕事中に職場で卓球をやってて(しかも下手で激しい)「この人大丈夫か?」と思わせながら、でもしっかり料金所の封鎖や、高速道路の封鎖などを指示していく。

 余談だけど、白バイ警官のヘルメットに「Gendarmerie」と書いてあったので、高速道路の交通取り締まりは警察でなく、憲兵隊の管轄なんだ~と思った。そこから「応援にヘリを呼ぼうか」とか、そういう話が出てくるのね。

 これ、一体どうやって撮影したんだろ? 子供も乗っているし、さすがにCGなんじゃ……と思っていたら、実際に高速道路を封鎖して走ったらしい。えええっ! 俳優さん達、すごいや!!

 原題の「À fond」は、ブレーキを「深く踏んで!」という意味だと思う。自動制御は便利だけど、いったん故障すると大変だよという。最後に、子供が生まれて病院のエレベーターに乗るんだけど、それも自動制御で……というのがブラック。