横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

人生はビギナーズ / 20センチュリー・ウーマン

 マイク・ミルズ監督の両親をモデルに描いた、自伝的映画。「人生はビギナーズ」では父親を、「20センチュリー・ウーマン」では母親を描いた。この2本は切り離せないと思うので、まとめてレビューを書いておく。

人生はビギナーズ」Beginners
監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガークリストファー・プラマーメラニー・ロラン
2010年

人生はビギナーズ [DVD]

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 <あらすじ>
 独身のオリヴァーは、母親の死後、父親から「実は自分はゲイだ」とカミングアウトされ、面食らう。父親はアンディという若い恋人も見つけ、幸せそうな晩年を送る。やがてその父親も亡くなり、オリヴァーは父の愛犬アーサーを引き取る。なんと、アーサーと会話ができることを発見し……。ある日、オリヴァーはパーティーでフランス人女性アナと出会う。

 
 この作品では、父親が美術館館長だったとある。まだ両親が離婚する前、オリヴァーが母親に連れられて父の勤務する美術館へ行くが、彼女は奇妙な言動をとり……。両親の不仲と離婚について、子供だったオリヴァー少年は「二人の相性が悪かった」ことが理由だと思っていたが、真相は、父親がゲイだったから。それを承知で強引に母は結婚し、子供までもうけたが、溝は埋められず……。そんなこと、まだ小さい子供に話せないよな、うん。

 両親は離婚し、エキセントリックな女性とおぼしき母に育てられる。オリヴァーは優しいが、人生(というか、女性や恋愛?)に臆病な青年に成長する。ユアン・マクレガーがそんなオリヴァー役にハマっている。

 母そして父の死で、ある種の喪失感を抱えていて、素敵な女性が現れても前向きになれない。若くて朗らかな女性アナとの関係を進めるのに、彼の背中を押したのは、自分らしく生きる晩年の父の姿、そして、しゃべる犬アーサーとの深い会話(!)だった。

 それにしても、メラニー・ロランのようなさわやか美女が好意を寄せているのに、うだうだ悩むとは、もどかしい男だ。オリヴァーは一人っ子で、兄弟がいない。両親の離婚だとか、父親のカミングアウトだとか、子供の頃から一緒に衝撃を受け止め、語り合う相手がずっといなかったのも関係あるのかな。

 犬のアーサーがとてもかわいい。飼い主と会話もできるなんて。こんな犬、欲しいな。最高の相棒じゃないか(もし、オリヴァーがアナと暮らしたりしたら、アーサーはやっぱりアナとも会話するのだろうか!?)。



20センチュリー・ウーマン」20th Century Woman
監督:マイク・ミルズ
出演:アネット・ベニンググレタ・ガーウィグエル・ファニング
2016年

 「人生はビギナーズ」が両親の死後、かつ、主人公が大人になった後を描いているのに対し、こちらは母と暮らしていた少年時代を描いている。

<あらすじ>
 1979年のアメリカ西海岸。両親が離婚し、母ドロシアと暮らす高校生のジェイミー。反抗的な態度の息子に手を焼いたドロシアは、下宿人の写真家アビーと、息子の幼なじみジュリーに協力を求める。アビーは子宮頸がんの可能性に怯えていた。ジェイミーはジュリーに恋しているが、彼女にはまったく相手にされない。それどころか、彼女は他の男と関係を持ったり、「妊娠したかも」という相談をされたり……。


 これが1970年代のアメリカ西海岸の雰囲気なのか! ヒッピー文化の名残も感じられて、なおかつもう少しで1980年になるところ(さすがに音楽にあまり聞き覚えがない……。当時ワタシは小学生。ピンクレディーとかテレビで見てた頃だ)。

 タイトルは、「20th Century Boy」のもじり? 母のドロシアだけでなく、アビーとジュリーのことも含めているように思える。世代の違う3人の女性たちが個性的で魅力的。アメリカのフェミニズム運動って、こんな感じだったのか。フランスとはまた違う形で、すごくラジカル。母親とうまく行ってなさそうな、アビーとジュリーの姿が象徴的。彼女たちの場合、フェミニズムへの関心は、「母親の否定」から始まったのか。

 アネット・ベニングの演じるドロシアが素敵。戦時中だった若い頃、飛行士になる訓練を受けたり、「世の中を見に行くの」と若者の集まるライブハウスに行ってみたり、一筋縄ではいかない女性。元々、どちらも多少の創作が入っているとはいえ、「人生はビギナーズ」で描かれた母親像とはまるで違う。

 「20センチュリー・ウーマン」の方には、別れた父親がまったく出てこないが、前作を見た観客は「あの、本当はゲイだったから離婚したお父さん」の姿を想像してしまう。

 以下、音楽余談。
 病院に付き添ってくれたお礼にと、アビーがジェイミーにオリジナルのカセットテープを渡すのだが、ええと、これって1970年代あるあるなのかな? この前も「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス」でカセットテープが出てきたし。

 ワタシは稲垣潤一さんのファンなのだが、ライブでのMCだったか、インタビューだったかで、オリジナル・カセットテープの説明をしていた。新曲の歌詞の中に出てくる「カセット」というのは、自分で好きな曲を入れたものなんですよと。それがドライブの定番だったと。ほほう。
 
 ワタシが洋楽を聴き始めた1980年代は、CDが登場した時代で、アルバムを買う時も、最初はカセットテープだったのが、途中からCDになった。大学生になって、友達と車で遊びに行くようになったのは1990年代だったので、その頃にはオリジナル・カセットテープというものは、消えていたと思う。