横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

火花

「火花」
又吉直樹  文芸春秋

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 
 えっ、アンタ、まだ読んでなかったんかい! とツッコまれそう。
 ええ、今、積読本が溜まっております……。

 若手芸人の火花のようなきらめきを描いた青春小説。主人公の徳永は「スパークス」というコンビ名で活動している。その「スパークス」は、英語で「火花」を意味する。

 後輩の徳永を前に、熱く漫才論を語る神谷。成功した芸人が語るなら、それは伝記でも他の本でも、ファンや後輩の若手芸人にとってはありがたいお言葉になっただろう。

 

 だが、神谷は成功に手が届かなかったので、彼の言葉はあくまで青臭い精神論に留まったままだ。

 同業の仲間内での「面白さ」と、世間から思われる「面白さ」の相違は、お笑いに限らず、音楽や文学、演劇の世界でもありそう。著者の別のエッセイにも出てきたけれど、又吉が「こいつら面白いなあ」と思っていた若手芸人が、結局はブレイクを果たせないまま解散・引退した。

 彼らの「面白さ」を理解できない世間がいけないのか。それとも、世間にも理解されるよう、歩み寄らない(媚びるのとは違う)芸人がいけないのか。

 ”師匠”と慕った神谷を追い抜くように、テレビでレギュラー番組を持ったけれど、結局はコンビ解散、引退を選んだ徳永。他の相方とは組めないし、組みたくない。本人ではなく、相方とか周囲の事情で引退を選ぶ若手芸人も実際は少なくないのだろう。

 著者の又吉は、かつて「線香花火」というコンビ名で活動していた。線香花火は束の間、見る者を楽しませ、消えていく。でも先輩芸人は、そんな名前はダメだ、みたいなことを言っていたらしい。芸人にとっては縁起でもないから。名前がたたったのか、「線香花火」は解散してしまった。ただ、作中の徳永とは違い、又吉の場合は別の相方を見つけたばかりか、その新コンビ「ピース」でブレイクしたのだが。

 小説のラストは……オバチャン、映画の「ハングオーバー!!!」を思い出したわ。パート3な。

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