読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿

「質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿 シャーロック・ホームズの姉妹たち」
ファーガス・ヒューム著  平山雄一訳  国書刊行会


 「駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険」(記事)に引き続き、「質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿」を読んだ。こちらは連作短編集。

【ちょびっとネタバレ】
 主人公はロンドン、ランベスで質屋を営む若い女性。ロマ族(ジプシー)で、黒髪の美人とあるので、当時の英国ではややエキゾチックな風貌なのだろう。

 フランシス・ベアードも、キュートな外見とは裏腹に、タフでしたたか(同僚を出し抜こうと、情報を隠したりする)だったけど、ヘイガー・スタンリーも負けてはいない。自立心旺盛で、聡明な女性だ。

 



 ロマ(ジプシー)といえば、コナン・ドイルの「まだらの紐」では、屋敷の敷地でキャンプをしているという記述がある。また、ホームズ映画なら、ガイ・リッチー監督の「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」に出てきた女占い師マダム・シムザ(ノオミ・ラパスが演じた)とか。19世紀の英文学なら、男性だけど、エミリー・ブロンテ嵐が丘』に出てくるジプシーの血を引くみなし子ヒースクリフとか。英国社会からはみ出た立場かもしれないが、それほど遠すぎない存在なのだろうか。

 場末の質屋という舞台設定がいい。あらゆる社会層の人物が、あらゆる品物を持ち込む場所だから。

 主人公が質屋の女主人に落ち着くまでのくだりは、なんだかディケンズ作品を読んでいるかのよう。ヘイガーの親戚にあたる、質屋の吝嗇なディックス老人や、悪徳弁護士ヴァーク、さらに、主人公が店を継いでから雇ったボルカー少年は、賢いというより抜け目がない。大英帝国という背景から、店を訪れる客も多国籍(イタリア人、ペルシャ人など)で、質草として登場するお宝も、さまざまな来歴を持っている。映像化したら面白い画になりそう。

 質屋稼業や探偵だけでなく、ヒロインは捜査の合間に恋もする。店にやってきたユースタスとの恋の行方も、読者には気になるところ。ユースタスも、美しく聡明なヘイガーのことが気になるもよう。そもそも、彼女が故郷を離れたきっかけは、一族のゴライアスという男から求婚されて逃げてきたことだし、ロンドンではヴァークにも惚れられたり、刑事さんにはかわいいとお世辞を言われたり。女探偵史上、最高のモテ女子?

 必要とあれば、店を離れて自由に動き回れるというのが、彼女の強味。でも、素人の若い女性の意見を採り入れてくれるなんて、本書に出てくるホーヴァル刑事やジュルフ刑事って、かなり開けた考えの持ち主だ。かのシャーロック・ホームズですら、最初はなかなかスコットランド・ヤードの人たちに受け入れてもらえなかったのに……。やるな、ヘイガー。

 「四人目の客と謎の十字架」は、意外な凶器のトリックとして秀逸。情熱犯罪はラテン系の人間(ここではイタリア人の男女)の仕業……というのは、当時の英国のお約束なんだろうか。

 「九人目の客と秘密の小箱」は、なんだかホームズ物語の「犯人は二人」の前日譚のよう。こうやって手紙は外に流出するのか~、みたいな。

 他にも、暗号解読とか、謎めいた東洋のお宝とか、色々な謎が出てくる。
 ホームズ物語はもちろん、ディケンズ作品が好きな人にもお勧め。

 

 

 

広告を非表示にする