横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

漂うままに島に着き

「漂うままに島に着き」
内澤旬子  朝日新聞出版
 

漂うままに島に着き

漂うままに島に着き

 

 
 『身体のいいなり』『捨てる女』などの著書のある、内澤旬子さんの新刊。雑誌か何かで、可愛いヤギと暮らす姿を拝見して、小豆島へ移住したことを知った。

 病気を経て、なぜか体調が良くなったという『身体のいいなり』は、著者と年齢も近いこともあり、他人事には思えずに読んだ。また、病気や離婚をきっかけに物を手放したくなったという『捨てる女』。身軽になったところで、友人の移住をきっかけに小豆島を訪れ――。

 



 東京周辺に住んでいる人なら、2011年の震災直後の、奇妙な空気感を覚えているだろう。スーパーの棚からモノが消え、地域によっては計画停電があった。妙な自粛ムード、中途半端な節電で街が暗くなった。被災地である東北地方からだけでなく、東京からも西日本へ移住する人が出た(私の周囲にはいないが、雑誌で読んだ)。

 著者の場合、大病を経たことで、価値観の転換を迎えた。狭いところがダメになった。今ならインターネットもあるし、東京を離れても、ライターの仕事は何とかなりそうというめどもついた。おまけに、移住先には東京時代の友人もいる。色々な条件が揃い、彼女の背中を押した。

 話はそれるが、以前、翻訳情報サイト「Amelia」の会報で興味深い特集が組まれた。タイトルは「外国でも地方でも活躍! 翻訳は場所を選ばない」。海外、そして日本の地方で暮らす翻訳者に取材したものだ。東京や大阪のようなところで仕事をするのとどう違うのか? 日本の地方都市の場合、やはりインターネット回線があればどこでも仕事ができるそうだ。大きな図書館や書店があれば、尚良し。

 地方移住の予定もないのに、その特集記事をじっくり読んだ。ライターや翻訳者は、調べものや、資料や書籍をどうするかという問題さえクリアできれば、住む場所を選ばない職業と言えるかもしれない。

 本書に話を戻す。
 いくら震災直後の東京で、モノが手に入らない経験をしたからといっても、著書は自給自足生活を目指して小豆島へ移住したわけではない。女性の自給自足と聞くと、畑で野菜を作るイメージがあるが、彼女の場合は、なんと狩猟免許を取得した。さすが、『飼い喰い 三匹の豚とわたし』という著書もあるだけある。自給自足のスケールが違う!(野菜は近所や友人からおすそ分けがあるのだという)

 本の前半は移住を決め、引っ越すまでのドタバタ、後半は移住生活の実際について書かれている。小豆島には、若い女性の単身移住が増えているらしい。そのおかげで、著者も移住のハードルが下がったと書いている。また転居後も、周囲の人に恵まれ、快適に暮らしていると。ただ、それは小豆島だからこそ、なのかもしれない。

 著者によれば、他の地方都市(四国のどこか)へ行ったら、移住者に冷ややかな地元住民の声を聞いたり。一口に田舎と言っても、よそ者にオープンな土地もあれば、そうではない土地もあるわけで。それは東京・大阪からの距離とは関係ない。

 簡単には真似できないけれど、小豆島の暮らしを楽しんでいるようで、「良いなあ~」と最後まで読んだ。だが、あとがきによれば、せっかく気に入った家を見つけたのに、セキュリティの問題とやらで(えええっ!?)、再度転居することになったらしい。メディアの取材を受ける以上、プライバシーの観点からも、狩猟の作業の点からも、住居と仕事場を分けた方が好ましいのだろう。

 小豆島は、一度訪れてみたいな~と思っていた。交通不便らしいので、瀬戸内国際芸術祭なんかの時に行くのが良いのかな。

 私も著者のようなペーパードライバーなので、車のくだりは他人事に思えなかった。恐ろしいのう。早く、自動運転が実現して欲しいもんだのう。

 

捨てる女

捨てる女

 

 

身体のいいなり (朝日文庫)

身体のいいなり (朝日文庫)

 

 

飼い喰い――三匹の豚とわたし

飼い喰い――三匹の豚とわたし