横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ONCE ダブリンの街角で

「ONCE ダブリンの街角で」Once
監督:ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ

2007年 アイルランド 映画

 
 秋になると、きまって聴きたくなる音楽がある。映画「ONCE ダブリンの街角で」の中で歌われる「Falling Slowly」というデュエット曲だ。これを聴くと、かつて11月に一度だけ訪れたアイルランドの、ひんやりした空気を思い出す。

 この映画を見たのは飯田橋ギンレイホール。見た当時は、低予算作品らしい、でも自由に撮影した、チャーミングな小品だと思った。

 その後、ジョン・カーニー監督の「はじまりのうた」を見た際に、「ONCEダブリンの街角で」が世界中で大ヒットし、グラミー賞を受賞していたことを知り、驚いた。そればかりか舞台化され、世界各地で上演されていたことも。たとえるなら、アイルランドの無名女優が、いきなりハリウッドで有名スターになっちゃったような印象だ。

 

 主な登場人物は「男」と「女」だけ。男はギター片手に歌うストリートミュージシャン、女はピアニスト。一方はロンドンに旅立った元カノに未練があり、一方は関係がうまく行っていない夫が母国チェコにいる身。音楽を通して(あと、掃除機の修理!)親しくなった二人は、仲間を集めてレコーディングを行う。

 ほんの数日の間の出来事で、二人は恋愛感情があるのかないのか、微妙な時間を過ごす。最後には男はデモテープを持ってロンドンへ出発し、女の方は夫と暮らすことになる。偶然、この映画の公開の頃、主演の二人が交際していたので、物語の世界と現実が交錯するような形になった。

「踊らないミュージカル」と称されただけあり、彼らは心情を歌で表現する。不自然さや唐突さが少なく、まるでミュージカルっぽくない。有名スターは出て来ないし、ストーリー展開もシンプルで、音楽の良さが人々の心を打ったのだと思う。

 言うまでもなく、この映画も、見た後すぐにサントラCDを買いに行った。

 

 

 

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