横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

追悼 山田登世子さん

 仏文学者の山田登世子さんがお亡くなりになったという。

 フランス文学のうち、19世紀後半~20世紀初頭が好きなので、ご多分にもれず、山田先生の本はいくつか持っている。(もちろん、鹿島茂先生の本も!)

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「リゾート世紀末」は、ベルエポックに誕生した、水辺リゾートをめぐる考察。
「メディア都市パリ」は、新聞が一大メディアであった時代のジャーナリズムと当時の売れっ子作家たちをめぐる考察。どちらも、初めて手にした時、切り口が斬新だと思った。そしてファッショナブルという印象。今、手元にあるのはこれだけだが、この他にも何冊も読んだっけ。

 



 その昔、大学でフランス文学を専攻していた私は、どうしても会社に就職するのが嫌で、大学院に行こうと思っていた。ぜんぜん家は裕福じゃない。たまたま先輩で、いったん大学を卒業して就職→お金を貯める→大学院に入学、というコースをたどった人がいた。それを見て、「これなら真似できる」と思った。


 んで、「お金を貯めたら、3年で会社を辞めよう」という決意で、とある会社に就職した。へっぽこサラリーマンだったが、それでも自由に使える、まとまった額のお金が入ってくるのは嬉しく、給料は「そのうち大学院に行くんだから」と、お高い文学書に消えた。自宅通勤だったので、3年でまあまあ貯金ができた。

 しかし、社会人3年目で我に返った。このあと修士課程で2年、博士課程で3年、フランス文学ということは、本場フランスにも留学するかもしれない。となると、いくら貯金があれば足りるんだ? いや、学費の他にも、本だって買うだろ。いつ、再び稼げるようになるんだ?

 結局、会社は辞めたけど、貯金は語学留学の費用にあてた。最終的に翻訳者になったので、元はとれたはずだ(たぶん)。

 手元にある山田先生の本を見ると、「リゾート世紀末」は1998年刊行、「メディア都市パリ」文庫版は1995年刊行。社会人になって、どっちの方向に行こうか、ふらふら迷っていた頃に買ったわけだ。さすがにもうその頃には「いつか勉強に役立つかも」ではなく、もう文学なんて、純粋に趣味になっていたと思う。

 もし、私がもう少し遅く生まれて、大学生の時に山田先生や鹿島先生の本に出会っていたら、やばかったかもしれない。「まあ素敵!」と感化され、才能もないのに「ワタシもこういう世界へ!」と勘違いして、道を誤ったかもしれない。

 でもお金がなかったから、たぶん修士課程ぐらいで我に返って、遅まきながら「やっぱり就職しよう」と思ったんだろうか。

 山田先生、素敵な本の数々をありがとうございました。
 合掌。

 

メディア都市パリ

メディア都市パリ

 

 

リゾート世紀末―水の記憶の旅

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