横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

読書メモ

 長期の仕事が終わった→待ちに待った休暇をとる→風邪をひくという、素晴らしきスパイラル(泣)
 読書メモをまとめて簡単に。

 

新しい須賀敦子

新しい須賀敦子

 

 『新しい須賀敦子』湯川 豊、江國 香織、松家 仁之著 集英社
 2014年に神奈川近代文学館で開催された「須賀敦子の世界展」(こちら)の講演や対談が収録されている。手紙とか、新しい資料が出てきたらしい。この文学展、見逃がして後悔していたが、こういう形で本が出るとありがたい。
 湯川豊氏は須賀さんの編集者だったが、後に「須賀敦子を読む」という評論も出している。ファンは必読。

 

誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬

誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬

 

 『誰がネロとパトラッシュを殺すのか  日本人が知らないフランダースの犬』 アン・ヴァン・ディーンデレン、ディディエ・ヴォルカールト著 岩波書店
 「フランダースの犬」は日本以外でも映像化されている。日本のアニメでは、最後に悲しい結末を迎えたが、アメリカの実写映画版では、ハッピーエンドになっている。国民性の違い?
 確か、リュック・ベッソン監督のフランス映画「グラン・ブルー」も、アメリカ版はラストが違うよね。

  思い出した。20年ほど前、アントワープの街を旅行で訪れたら、観光協会で「どこから来た?」と聞かれ、「日本」と答えたら、日本語のパンフレットがささっと出てきた。確か、「フランダースの犬」の情報もあったはず。よほどたくさんの日本人旅行者がやってきて、物語の舞台となった場所を質問したんだろうな~と思った。

 現在は、本書によると、そこまでの盛り上がりではないようで……。シャーロック・ホームズ物語のおかげでロンドンに愛好家が集まったり、日本国内でもアニメの舞台となった街に若者がやってきたり、街おこしだけでなく、経済効果も高いはず。どうやらベルギーの人は、「物語の世界」に沸く人たちに対して、いささか冷ややかな感じのようで……。興味のない人から見れば、「なんか変なオタクが来た!」なのかな。

 

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

 

 『彼女のいない飛行機』ミシェル・ビュッシ著 集英社文庫
 2015年の話題作をようやく読んだ。あまりの分厚さにひるんだが、昔なら上下巻サイズだよね。最近の文庫は分厚いのう……。
 ひとたび読み始めると、ぐんぐん引き込まれていく。謎はいくつかあって、飛行機事故で助かった”奇跡の子”リリーは、どっちの家の子か? 以外にも、読者は謎に悩まされる。途中、片方の家の祖父は事故死、もう片方は病気になり、祖母二人の女の闘いの様相を呈してくる。祖母たちだけでなく、片方の家の兄のマルク、もう片方の家の姉のマルヴィナの二人も、妹のリリーをめぐり、数奇な人生を送ることになる。もう、探偵のグラン・デュックがひっぱることひっぱること! じりじりしたよ。
 作者はノルマンディー出身で、同じ地方の先輩モーリス・ルブランに敬意を表して「Code Lupin」なる本を書いている。直訳すると「ルパンの暗号」か。こっちも気になるが原書で読むしかないのか。フランスのアマゾン見ると、評価が見事にばらけているんだけど……。