横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

シャーロック 忌まわしき花嫁

「シャーロック 忌まわしき花嫁」Sherlock The Abominable Bride
出演:ベネディクト・カンバーバッチマーティン・フリーマン 

 
 BBCドラマ「シャーロック」のクリスマス・スペシャルが、日本では映画として劇場公開されたもの。コナン・ドイルの原作を、21世紀を舞台に変えて映像化したものを、どうやってまた19世紀に持って行くのか? タイムマシンには乗っていませんよ。

 

 シリーズを未見の人は、シーズン1~3までひととおり見ておいた方が良い。


 まず、ビジュアルの感想を。かねがね、髪をオールバックにしたときのベネディクト・カンバーバッチって、グラナダ版ホームズのジェレミー・ブレットに雰囲気が似ているなあと思っていた。それが、ヴィクトリア時代の衣装を着たところ、結構ハマっているではないか。

 マーティン・フリーマンも、映画版ワトソンのジュード・ロウに負けずとも劣らない。「ジョン」ではなく「ワトソン」に変身している。

 ビジュアルがハマっているというのは、とても大事。だって、ガイ・リッチ―監督の「シャーロック・ホームズ」は、何回見ても、ロバート・ダウニーJrはホームズに見えないんだもん!(ジュード・ロウはばっちりなのに……)

「忌まわしき花嫁」(The Abominable Bride)は、聖典に登場する語られざる事件 "Ricoletti of the club foot and his abominable wife."(内半足のリコレッティと忌まわしい妻)から来ている。


以下、ネタバレ。

 



 キャストの中にモリーフーパー役のルイーズ嬢が入っていたので、あの時代で、あの職業に女性が就くのは無理でしょ? 別の役? と思っていたら、なるほど、男装させたか(ワトソンは見抜いたけど)。さすがにサリー・ドノヴァン巡査部長までは、19世紀のスコットランド・ヤードに投入できなかったけど……。

 そして、マイクロフト兄が……CGか? デニーロ・アプローチか? 肉襦袢着たか? 何を使ったか知らないが、聖典の挿絵以上にデブになってたよ! あれで「シャーロックと兄弟でーす♪」と言ったって、信じないよ!

 さすがにモリアーティだけは、「若すぎるなあ」と思ってしまった。聖典だと、モリアーティ教授はもっと年をとっているから。

 舞台を19世紀にしたことで、シャーロキアンに嬉しかったのは、聖典の台詞がそのままバンバン出てきたことだろうか。「そのまま」というのがミソ。なにせ、19世紀から現代まで100年以上たつ間に、英語の表現が変わってしまい、たとえば「バスカヴィルの犬(ハウンド)」では、わざわざハウンドという表現について断りをいれたほど。それが、舞台を聖典の時代にしたおかげで、何もいじらずに、コナン・ドイルの書いた言葉が聞けるのだ。

 俳優の台詞回しも、日本でいうと「時代劇調」と表現すればいいのかな。グラナダ版をほうふつとさせるのだ。映画の中でところどころ現代に戻ってくるが、ヴィクトリア時代の場面は「シャーロックとジョン」じゃなく、まぎれもなく、あの「ホームズとワトソン」なのだ。


 私が以前、レウヴァンの「シャーロック・ホームズの気晴らし」(こちら)を翻訳したとき、頭の中ではグラナダ版をイメージしていた。ジェレミー・ブレットの動きや、あのベイカー街の部屋や衣装を念頭に置いていた。ただし、ワトソンが銃をちらつかせる場面は、映画版のジュード・ロウ(闘うワトソン)を思い浮かべたが。あの翻訳の前に今回の映画を見ていたら、イメージをふくらますのに、ものすごく参考になったかもしれない。

 

 

 

 

 

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