「大統領の料理人」Les Saveurs du palais
監督:クリスチャン・ヴァンサン
主演:カトリーヌ・フロ
2012年(日本公開2013年)フランス映画
公開直後に見た作品だけど、先日「グレーテルのかまど」(再放送)でサントノレが取り上げられていたので感想を。
フランス、ミッテラン大統領の在任中の実話を基にした映画。地方で小さなレストランを営んでいたオルタンス・ラボリは、ある日、エリゼ宮に呼ばれ、大統領専属の料理人になるよう依頼される。
晩餐会などを取り仕切るシェフたち(全員男性!)は別にいて、彼女はプライベートな食事を担当する。大統領が求めていたのは、華美な料理ではなく、”おばあちゃんの料理”のようなものだった。彼女の活躍が面白くない男性シェフらの嫌がらせにも負けず、大統領に喜ばれる料理を作っていたが、途中で大統領の健康管理といった課題が出てきたりして、存分に腕をふるえなくなる(伝統的なフランス料理はカロリーが高いのだ)。
エリゼ宮を2年で去った彼女が次に就いた仕事は、なんと南極料理人!そこでは、故郷フランスを離れて過ごす若き隊員たちのために、フランスの家庭料理を作る。
モデルとなった女性料理人は、ダニエル・デルプシュ。映画公開時のインタビューはこちら。「グレーテルのかまど」にも本人が登場していた。
南極料理人の後は、ニュージーランドでのトリュフの生産などに携わり、フランス料理・食材の普及を目指して活動しているらしい。
長期政権だったミッテランの在任期間のうち、彼女が働いていたのは1980年代。いくらフェミニズム大国フランスでも、当時はまだ料理の世界は男性が主流だった。彼女の苦労は、映画に描かれた部分だけじゃなかっただろうと想像する。でも、こうして映画で当時のエピソードが公開されたことで、一矢報いたのではないだろうか。
実話を脚色しているので、どこまで本当にあったことかわからないが、旬の食材が届いたと聞いた大統領が厨房を訪れて、オルタンスと一緒にワインを飲む場面が良かった。色々あってへこんでいた彼女に、大統領が「逆境は人生のスパイスだよ」と声をかけたり、立場を越えて心を通わせていたのがうかがえる。
ミッテラン大統領の出身はフランス南西部のシャラント県。ダニエル・デルプシュもやはりフランス南西部のペリゴール地方出身なので、ミッテラン大統領の求めた”おばあちゃんの料理”というのは、子供の頃に食べていた、この地方の料理だったんだなというのがわかる。フランス料理って、実は郷土料理だからね。
カトリーヌ・フロの、料理人としての手つきが見事で、相当練習したのではないかと思う。セザール賞の主演女優賞も納得。
ミッテラン大統領役のジャン・ドルメッソンはフランスの高名な哲学者で、演技をしたのは初めてだというが、すごくはまっていた。文人政治家だったミッテランの雰囲気に合っているような。日本でもたまに俳優じゃない文化人が映画やテレビドラマに出てたりするけど、はまっている人は少ない。話題性より、役柄に合っているかでキャスティングしてほしい。