横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

そそっかしい暗殺者

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「そそっかしい暗殺者」L'Assassin Maladoroit
ルネ・レウヴァン 
早川ポケミス日影丈吉訳) 1973年

1971年フランス推理小説大賞受賞作

8月23日はフランスの作家ルネ・レウヴァンの誕生日。
1925年生まれなので、御年90歳!

ということで、代表作「そそっかしい暗殺者」の感想を。

オクターヴ2世」(Octave II /未訳)に続く、弁護士オクターヴ・マニグーが主人公のミステリ。フランスでも、1作目の方は古本でしか入手できないが(私もまだ読んでいない)、2作目である本書の方は賞をとった効果なのか、今でも新刊で原書を入手できる。この2冊セットで読んでみたいなあ。

 前作は日本で紹介されていないが、オクターヴは南仏が舞台の「パラディウムの犯罪」で活躍したらしい。本作では彼はパリに移り、弁護士事務所を開業し、秘書のマリ=エレーヌ、ドービエ、デュランの助手2名のスタッフを抱えている。

 



 作品全体を手紙と日記という、書いた文章で構成しているのがユニーク。主人公に届いた殺人犯からの脅迫状をはじめ、主人公と祖母のやりとりは、祖母が電話嫌いのため手紙を使っていたり、秘書マリ=エレーヌが事件の経過を報告するのは遠くに住む女友達への手紙だったり。

 ある日、オクターヴのもとに、見知らぬ人物から脅迫状が届く。裕福な一族の出身なので、財産をめぐっての怨恨ではと思い、親戚たちを調査する。デュランは南仏に飛び、いとこのクロードと結婚相手ユベール・ロメリの身辺を探る。秘書のマリ=エレーヌは、別のいとこで古い友人の夫でもあるジョルジュ=アントワーヌの方を、仕事にかこつけて調べることに。

 

 やがて脅迫状だけでは済まず、事務所に銃弾が撃ち込まれるわ、巻き添えになったドービエが命を落とすわ、車に爆弾を仕掛けられるわ、オクターヴは何度も危険にさらされる。

 犠牲者が出たとはいえ、標的であるオクターヴは無事だし、犯人はどうやら射撃が下手らしい。原題の「maladroit」とは、仏語で「不器用」を意味する。

 オクターヴ自身も南仏に赴き、いとこのクロード(初恋の相手?)に再会する。彼女には弟を亡くした辛い記憶があった。事故死の状況をめぐって、いまだ不明点があり……。一方デュランは、姉(ドービエの婚約者だった)を亡くしたソフィーという若い女性に出会い、何度か顔を合わせるうちに恋心を抱く。そして、アラフォー独身のマリ=エレーヌは、ジョルジュ=アントワーヌに同情するうちに、距離を縮め……。事件の捜査もさることながら、そこかしこで恋の花が咲きそうな予感。

 そんなおり、過去の事件の手がかりになりそうな写真をデュランが手に入れる。それをパリに送ると、今度は受け取ったマリ=エレーヌが犯人に狙われる。危ういところで難を逃れるが、最終的な写真の宛先であるオクターヴが自宅に戻ったところを、マリ=エレーヌの時と同じ犯人に銃撃される。脅迫状を送ってきたのは、この人物なのか?

 最後にどんでん返しがあり、意外な犯人が判明する。読者のミスリードを誘う技は「お見事!」としか言いようがない。

 アラフォーの秘書マリ=エレーヌは、年齢的に新しい恋を諦めていて、セクハラとか悶着を避けるために敢えて女らしさを封印している。でも、女性としてまだまだいけるよ! 女友達のエレオノールじゃないけど、背中を押したくなる。

 脇でちらっとしか登場しないので想像だけど、オクターヴの祖母はたぶん面白いキャラクターなんじゃないかな。気になるので、「オクターヴ2世」もそのうち原書を入手して読んでみようかと思う。